体の言い分         金子つとむ

     

むかし大原麗子という

ちょっとハスキーな声の

美人の女優さんがいて

その声がとても好きだった

あれは

ウィスキーのCMだったか

ストーリーは

忘れてしまったけれど

キャッチフレーズだけは

今でも覚えている

「少し愛して・長く愛して」

それを聞くたびに

何となく心が

ときめいたものだ

     

とても大雑把な

言い方だけど

人は食べて消化して生きている

だから

人の寿命も

その消化能力に依存するのでは

ないだろうか

その理屈でいえば

小食ならきっと

長生きできるだろう

あのCM風にいえば

「少し食べて・長く食べて」

である

     

そういえば

ゾウの時間・ネズミの時間

という本で

哺乳類の心臓は15億回打って

止まるのだと知って

びっくりした記憶がある

寿命が違うのは

ただ心拍数が違うからだという

それなら

いつもゆったりして

心拍数を抑えるようにすれば

それだけでも

長生きできるのでは

ないだろうか

     

現代人は忙しすぎる!

     

体はまるで

奴隷のようだ

毎朝目覚し時計がなると

脳が命令し

無理矢理

ベッドから体を引きはがす

体にとっては

暴力的な仕打ちだろう

ときには

しずかに目を閉じて

体の言い分に耳を傾けよう

「少し食べて・ゆっくり生きて」

きっとそう言われるに

決まっている

     

僕らは

もう少しゆっくり生きても

よさそうなものだが

僕も定年まで駆け抜けるように

生きてしまった―――

だから

これからは

もっと丁寧に生きたい

と思っている

もし今でも

大原さんが生きていて

あの声で

それを言ってくれたら

みんな気づいてくれるだろうか

「少し食べて・ゆっくり生きて」

暁にみた

夢の話である